いっそう丁寧な接客を 啓文堂書店・隠明寺 亮さん

この店のレジの後ろは通路を挟んでデパートのベビー休憩室になっている。ようやく選んだ書籍を抱え
て、客がレジの順番待ちをしている背後から赤ちゃんの泣き声が…という光景もあり 、書棚から書棚へ
移動する際に自分の足音にさえ気をつけるという書店での不文律がここでは通用しない。デパートに来
たら本屋があったので…と立ち寄ってくれる客と、京王線沿線を中心にチェーン展開する啓文堂書店に
という客が混在する、 この現実。 ここで働く人には京王百貨店書籍売場のスタッフという自覚と、 本が
好きだから入社した啓文堂書店の社員というダブルスタンダード(二重基準)が求められている。

ふつうの書店とは明らかに異なるこの立地条件を、隠明寺店長はまたとないチャンスと受
け止めている。お客さまのクレームには自分たちが気づかなかったポイントが隠れており、
視野を広げていく上でこれほどありがたいものはないと、 いっそう丁寧な接客を心がけて
いるのだ。 実際、ターミナル駅のビル内の店舗としては固定客が多く 、「××について選
んでください、 調べてください」 と頼りにされるケースが多い。 また、何かに一家言を持つ
お客さまがアドバイスしてくださる事例も多いのだそうだ。 売り場面積も大型書店のように
はいかないが、社内バイク便を活用し 翌日には希望の書籍を用意できる機動力でカバー
しているという。今回の取材とは別の日に店頭で声をかけてみたところ、中央線の高尾から、
都営地下鉄を使い千葉県の本八幡の先から…など 予想以上に広い範囲からこの店に集
まっていて、店長始めスタッフのひたむきな努力が実を結びつつあるとの印象を強くした。
こうしたお客さまに応えるために、デパートの催事と連動したり、地方都市の行政など世の
中を広く巻き込んでいく仕掛けの大きなブックフェア、 ベビー休憩室の親子ともども吸引す
る品揃え、団塊の世代が中心となっていく顧客の年齢に合った特色ある売場づくり…など、
店長の頭には集客につながる具体的アイディアが目白押しで、 聞いているこちらも愉快に
なってくるのだが、残念ながら、 いま具体的な内容を記すわけにもいかない。 新宿へお出
かけの際は、ぜひともご自分の眼でお確かめいただきたい。
自分はもともと本が好き、 人と接するのも好きだった。 この2つを両立できる仕事の場とし
て書店を選んだ。これは! と思った本を仕入れて並べ、それをレジに持って来てくれた時
の喜びは、他の何物にも替えがたい、 また、 お客さまがいちばんの先生であり、できるか
ぎりの恩返しをしていきたい… と、 最後に少年の眼差しになった隠明寺 亮さん。 来年は
勤続25周年である。

  

 
   

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