【f-tomoカフェ レポート】第3回 海原純子さん <前編>

“こころの深呼吸”しませんか? (前編)

家庭で、職場で、心のモヤモヤやストレスと上手に関わるには――

2018年6月6日(水) 開催

 

海原純子さん
医学博士・心療内科医・産業医。日本医科大学特任教授。婦人之友に「こころの深呼吸」好評連載中。20年間休止していた歌手活動を1999年より再開。ジャズ歌手としてライブ活動を行っている。

 

撮影/金子 睦

 

 

夜寝る前に、いやな気持ちを洗う時間を

海原:

今日は、とても楽しみで。私は皆さんとはたぶん初めてお目にかかりますが、ずっと知っている人に対するような感じです。

 

皆さん、結構緊張していませんか? 簡単にできるボディーワークから始めたいと思うんです。まず、すごく落ち込んで気持ちが滅入っている人ってどういう姿勢をとっているか、ちょっとやってみていただいていいですか? そうですよね。下を向いていますよね。で、こう首を下を向けて、自分の足元を見るみたいな感じで……その格好をしばらく続けていると……気持ちが滅入ってくるんです。

会場:

あはははは。

海原:

逆にご自分の目の高さを15度から20度くらい上にして、両手を上にあげて、グーッと伸びをする、のびのびしたまま、“私はうつ”って言えますか。言えないんですよ。体ってすごく正直で、体が緩むと気持ちって自然に緩む。

 

私はストレスについてずっと研究しているんですけど、ストレスって実はそんなに怖がることはない。溜めるから怖いんです。ゴミと同じです。皆さん、夜、食事の後、その日のゴミを捨てて寝ますよね。いやな気持ちのまま翌朝を迎えるというのは、心の中に生ゴミを溜めたまま寝るのと同じです。朝起きたときに生ゴミが溜まってるんです。いやですね。そしたら、夜寝る前に、洗うってことが大事。心の深呼吸って言ってるんです。

 

生きてればゴミって出ます。必ず。だんだん上手になって、少なくなるんだけど、それでも出るんですね。そしたら、ゴミを出さないようにしようじゃなくてもいいから、まず出しちゃったものをきれいにしてから寝ようとすればいい。夜寝る前にですね、ほんの3分でいいですから。いやな気持ちを洗う時間を作ってほしいのです。

 

どうやって洗うか。ぐーって伸びしたりすると、伸びている間ってあんまりものを考えられないです。だからこう伸びをして、ふーって息を吐く。その次のステップとしては、息を吐くときに、吐いた息と一緒にいやな気持ちや今日のいやなことが全部抜けてくイメージをするんです。今日の夜、お家に帰られたら、やってみてください。

 

いっぱい吐けば吐くほどリラックスしてくるはずですから。緊張したときや、怒っているとき、不安なときも、お休み前にする。そうするとほんとうに、自律神経のバランスが良くなってリラックスできます。

 

 

体を全部使って、別の視点をさがそう

記者: ストレスをためやすい“考え方のくせ”をときほぐす方法ってありますか?
海原:

くせってすごくて、全般的に、こうしなきゃいけないって固まっちゃってる人というのは、他の道が取れないことがあります。考え方も同じ。一つのことがうまくいかないとき、じゃあちょっと別の道はないだろうかと考える。そういう風に、自分の方向を変えてみるってことはすごく大事なんです。ただ、なかなか方向が変えられない人っているんです。

 

どういう人が変えられないか、体で言うと一カ所しか使ってない人です。例えば、右利きだから右手ばっかり使っている。自分には左手もあり、足もあり、ほかのところもあるんだけど、一カ所しか使わないで解決しようとしてもダメなんです。

 

普段からものの見方や考え方を柔軟にするためには、体を全部使うということです。すごく単純なんです。だから私は、ほとんど毎日泳ぎます。夜遅くなるときは朝6時半から開いているスポーツクラブがあるので、遠くても6時半に行って泳ぐんです。例えば10分泳ぐために髪洗って乾かして、そんな時間もったいない? それは違うんです。10分のためでもするんです。そうすると後が全然違う。

 

なんで泳ぐかというと、泳ぐことによって普段使ってないところを使えるんですよね。普段私は立ちっぱなしとか座りっぱなしとか、パソコンをずっと使いっぱなしで同じところしか使ってないので、他のところ使いたいんですね。いろいろな事をすると、いろんな別の見方ができます。

 

 

傷つくことを恐れないで。運動で回復!

記者:

ストレスを減らすのは難しいかもしれないけれど、回復できる力をつけることはできると、海原さんは繰り返しおっしゃっています。落ち込んだときにどうやって立ち直ったらいいのか、ヒントをいただけますか?

海原:

はい、まずはドカンと傷つくことを恐れないということなんですね。いまは何か、鈍感なのがいいっていう感じで、私は大丈夫ですって言う人がいて。私は嫌いなのです、そういうの。感じないなんて最低だと思って。だって感じないっていうことは、麻痺しているっていうことですよ。これ怖いですよね。ドカンときていいんですよ。ドカンと感じるってことは、いいことも感じるということ。それはもう非常に結構なことだと思うわけです。

 

私はストレス外来というのを開いていて、心が落ち込む程度と、その回復力について研究しています。回復力の指標になるような項目を30ぐらい作ってですね、統計調査したんです。音楽、運動、動物との関わりなどで調査すると、一番はやっぱり運動です。体を動かす習慣というのは、回復力に直結します。

 

トライアスロンとか、すごいことをしなくていいんです。ただそこらへんを歩くとか、ちょっとストレッチするとか、ヨガをするとか、それでいい。まず体を動かす習慣というのが第一です。あと、料理とか、無心になって集中できるひとときはすごく大きいですね。私は料理をするのがとても好きで、ただレタスを洗うのも、何かもうすごく真剣に洗っていて、雑念が飛ぶんだけど、そういうこと。皆さんも雑念が飛ぶことを考えていただくというのが、単純な回復力のような気がします。

 

 

 

一瞬の出会い――写真を撮ること

記者:

エッセイでは毎回、すてきな写真を紹介してくださいますが、海原さんにとって、写真を撮ることはどのような意味をもつのでしょうか?

海原:

写真は、何かほんとに一瞬の出会いという感じです。最初はアフリカに行ったりしてました。そのころはテレビに出ていたから、テレビに出る医者としての私しかなくて、何かもっと、そういう肩書きとかのないところで、どのくらい自分でできるかって。

 

アフリカのカルボベルデ共和国って、島国なんですけど、そこに一人で、乗り継ぎ、乗り継ぎ、乗り継ぎで行って、着いたらトランクがない! 
洋服もない、日焼け止めもない。どうして? と聞いたら、心配しなくて大丈夫だ、そのうち大きい飛行機が来たら運んできてくれるでしょって。いつ? と聞いたら、さあ……って言われて。一週間来ない。

 

着の身着のままで、カメラだけ持ってたんです。そのころはフィルムだからフィルム40本をウエストポーチに。それがあったから、いやもうしょうがない、写真撮ろうと思って、そこで撮り始めた。するとすごくいい出会いがあるんです。そのころ私はガリガリに痩せていたので、そこの市場の写真を撮っていたら、ちっちゃい小学校5年生くらいの女の子が「パンあげる」って。一個しかないのに「半分あげる」って、泥のついた手で。あ、すごいって思いながら、どうしようかな、食べようかしらと思ったり。私、痩せてるからきっと、かわいそうって思ってくれたのだと。そんな出会いもあった。

 

ものを撮るのもそうなのですけれど、何てきれいな角度なんだろう、とか思うんですよ。そうすると、そことの出会いが嬉しい。忙しい時に、ぼーっと座っていたら、目の前に普通の自転車があって、そこに雨が降って光が当たって。きらっと光るものがあって、あ、すごくきれいだな、って思った。そういう、きれいなものをきれいだなって思える自分がいるという安心感みたいなものを感じられるのが写真かな。写真を撮るって頭の中にインプットしておくと、これ大事なんですけど、きれいなものを見つけやすいです。

 

 

 

猫のようにしなやかに

記者:

人間関係の悩みは多く聞かれますが、どうしても避けられない苦手な人と関わるときのアドバイス、ありますか?

海原:

苦手な人って、いて当たり前ですよね。だからまあ、猫風に。猫って、猫嫌いな人に会ったときってどうしてるかっていうと、すっとどっか行っちゃうんですよね。なるべくそんなに深く関わらないようにとか、それから嫌われてもいいというか。自分のことが好きじゃなくて、気にくわなくても、まあしょうがないよね、のようなスタンスがベースにあると、楽ですよね。それでもすごく被害が来るような場合、実害が伴う場合はやっぱり、きちんと反撃するというか。引っかいてみるとか(笑)。

 

私、大学病院ですごく忙しい生活をしていたころは、猫を飼えないなと思っていた。けれど、その後クリニックを始めて、やはり忙しかったけれど、どうしてもほしくて、飼い始めました。忙しいけれど、猫の世話をするのがいやでない自分に気づいて。猫って、何がいいかって、忖度しないし、いやなものはいやって言う。これ、すごいなって観察していると、すごく進化した生きものに思えました。何か自由に生きていて、それで嫌われるかというと、そうじゃない。飼い主としては、お世話をさせていただいています、という気持ち(笑)。そういうことを猫に教えてもらっています。

 

*後編につづく⇒


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