【f-tomoカフェ レポート】第3回 海原純子さん <後編>

“こころの深呼吸”しませんか? (後編)

家庭で、職場で、心のモヤモヤやストレスと上手に関わるには――

2018年6月6日(水) 開催

 

海原純子さん
医学博士・心療内科医・産業医。日本医科大学特任教授。婦人之友に「こころの深呼吸」好評連載中。20年間休止していた歌手活動を1999年より再開。ジャズ歌手としてライブ活動を行っている。

 

 

撮影/金子 睦

 

 

海原さんからのお話(前編)に続き、会場からの質問を受けながらのオープントークへ。人生相談のように深く、そしてとてもなごやかな時間になりました。

 

 

いやな気持ちをアートに変えよう

会場からA:

今日はありがとうございました。毎月「こころの深呼吸」を楽しみに読んでいます。私は、あるできごとをきっかけに深く落ち込んで、何もできなくなることがありました。そういう時どうしたらいいか、お伺いできますか?

海原:

それは大変でしたね。皆さんもそういうこと、あると思います。
そういう時どうしたらいいのか? 何もしなくていいんです。ジタバタしない。まず信じることです、自分の体を。けっこう素晴らしいものですから。信じてお任せする。何もしたくない、何もできないときは、するのをやめましょう、という風に。するとだいたい、自然に浮いてくるんです。お腹も空いてきたり、何かちょっとやりたくなってきたりします。

 

落ち込んだりいやな気持ちになったり、ガーンと傷つくこと、私もありますけれど、それはチャンスなんです。私は順調なとき、物を書くことができません。あまり物が浮かばない、ほんとうに。たぶん、作家や画家、音楽家などアーティストは、みんな何かしら葛藤を抱えているのではと思います。

 

ですから、傷ついたときはチャンス。それをアートに変えるんです。いやな思いっていうのはある意味、心の中のゴミ。ゴミを愚痴にするのでなく、自分を通して、きれいな形で世の中に発信する、それがアートです。すごく素敵な料理をつくるとか、刺繍してみようとか、絵を描く、文章を書く、詩をつくる、ピアノを弾く、歌う、何でもいい。自分なりの出口、表現の出口を見つけて。それを見つけるのは、あなたの人生の責任です。

 

 

努力するのがいやでなければ、才能があるということ

海原:

自分のアートの出口を見つけるというのは、自分の才能を見つけるということです。才能というのは、例えばピアノがうまくてショパンコンクールに入選することではない。そのために努力して、練習する、それがいやではない、苦痛ではない。才能があるというのはそういうことです。

 

私は、ボイストレーニングをしたり、スキャットを練習したりするのが、大変だけれど、いやではないから、それが私の才能。原稿を書くのは、これはもう大好きだから才能。皆さんも必ずあるはずです。それがお金にならなくても、賞をとったり資格になったりしなくてもいい。ただ努力して、自分が去年の自分よりも、ちょっと進歩したっていうものをもつ。そういう素敵な大人がいっぱいになるといいと思います。

会場からB:

こんばんは。10代のころからテレビで拝見させていただいて。今日はとても楽しみに来ました。

海原: 10代のころから! 私、200歳くらい?!(笑)
会場からB:

実際にお会いしてみると当時とほとんど変わらない! 私はここ何年か子どもたちが家を離れて、心にぽっかり穴が開いてしまった感じです。これはいけないと思って、文章を書き始めてみました。先生の「こころの深呼吸」を読ませていただき、とても透明感のある文章と感じます。どうしたら、そういう文章を書けるのでしょうか。

海原:

私は、正直に、嘘なく書くように、思ったことを書くようにしています。それから、うっぷんを書かない。毎日の中でうっぷんはあります、いっぱい。でも、それらを料理するというか、よく考えて、別の見方をしてみて、もう少しきれいなところ、納得できるかなというところに来たら、初めて書きます。

 

あと大事なのは締め切りと字数です。その中でまとめるというのは、とても大事です。決められた字数内に収めるために、一生懸命考えたり潔く切ったり。最初のころは、思っていることの3分の1くらいしか文章にはならないこともありました。そんな風に書いています。

 

 

何かあったら言ってね――“そばにいる”大切さ

会場からC:

今日はお会いできてとても嬉しいです。私は小学校に勤めていまして、学校でも家でもなかなかうまくいかず、泣いている子どもがいて、さきほどのお話にもあった、何かその子が好きなことを見つけてあげたいと思うんです。自分以外の人の好きなことって、どうやったら見つけてあげられるのかなと。

海原:

他の人の好きなことを見つけてあげる、それは残念ながら、無理なんです。
例えば、摂食障害の方、いらっしゃるでしょ。私、患者さんとたくさん話をしますが、過食をやめようやめようっていうのではなく、他に何か、自分を表現できるものを積み上げていけるように。そうすると食べ物に対する意識が減っていくのです。けれど、自分らしい表現の方法を見つける、好きなものを見つけるって、残念ながら、その人自身にしかできない。これはその人に課せられた生きる上の責任。それが自分らしさを見つけるってことです。

 

ただ、その人のためにできることはあります。一緒にいること。落ち込んでいる人や、困っている人と一緒にいる。私はあなたのそばにいますからね。何かあったら相談してね。お腹すいたら言ってね。お茶を飲みたかったら一緒に行こうね。ちょっと歩きたかったら、一緒に散歩しようね、と。その人にとって、そういう存在がいるっていうことは、ものすごく大きいことです。

 

これは猫と同じ。猫は何もしないけれど、調子悪いときってそばにいてくれません? 何となく横にいて、ちょっと座っている。私はそばにいますって。これです。そうやって横にいると、その人は、安心して、何をするかって自分で見つけられるようになるんです。

 

私が小学生のとき、今で言う多動障害の子どもがいて、学級崩壊のようになりました。髪をひっぱったり、殴ったり、暴れん坊。4年生で、クラス担任が学校で一番おっかない体育の女性教師になった。どうなるかなって、みんな思っていた。そうしたら、その体育の先生、みんなで散歩する、というか遊びに、近くの貝塚へ。するとその暴れん坊がですよ、あたりを堀って、縄文式土器のかけらを見つけた。

 

その子は土器を見つける天才で、〇〇土器のかけらとか、いっぱい見つけて、それらがすごいものらしく。夢中になって、そのうち暴れなくなった。たぶん自然に、あの先生は、彼が自分らしさを見つける手伝いをしていた。その子は結局、大学の考古学部に行きました。ですから、大変だけれどまずは、そばにいることだと思います、猫のように。

 

 

 

海原さんからの言葉 「逆風のときこそチャンス!」

記者:

f-tomo カフェでは、ゲストの方に、大切にしている言葉を書いていただいています。海原さんの言葉、説明していただけますか。

海原:

逆風のときは自分らしさ、自分の表現の出口を見つけるチャンスです。いやなことがあったときこそ、それをぜひ、大事に生かしていただきたいという思いを込めました。

 

 


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