テッラマードレ in 水俣 〜大夕食会篇〜

10時30分からそれぞれ始まったプログラムは、15時には一部のワークショップを除いてほとんど終了。参加者は再びメインホールに集合。ここからは「特別トーク 高橋博之 × 島村菜津」と題した対談だった。
冒頭、「都会の人が危機的な状況にある」との言葉が胸に刺さる。
確かに、大都市で生まれ育ち、食べ物はお金と交換するもの、という価値観の中に生きていると、その背後にある生産者から食卓へのつながりを意識することは少ないだろう。
文化を守るためと「食育」が一人歩きして、大人たちも食の現状をよくわかっていないという。
子どもに教えてあげるというスタンスではなく、大人も子どもと一緒に学ぶ姿勢が必要だと感じた。
ツーリズムについても触れ、「日本は観光の歴史が浅いが、中世に遡ると、イタリア貴族が人格を養うために時間をかけて各地を回ったのがツーリズムの起源。いま、日本は逆に地域に伸びしろがある」と島村さん。
「顔が見える関係や、外とのつながりがこれから重要になる。それにはコミュニケーションツールとして”食”が優秀」との高橋さんの言葉は、地元学の勉強会での「食べるもんが一番わかりやすい」という吉本さんの言葉と重なった。
クロージングでは「不知火海ローカルフードネット宣言」として、食でつながる新しいネットワークのスタートが宣言され、各プログラムの要約がファシリテーターから共有された。
実行委員の方々の挨拶の後、サプライズで水俣ハイヤ節が披露され、子どもたちの堂々とした歌と踊りに、参加者は地域の力を強く感じた。
地元の産物たっぷりの大夕食会
続いての大夕食会では、登壇者・参加者ともに立食形式で食事の時を共にする。
ここで驚かされたことがある。待ち時間が長くなっても、誰一人として不満な様子がないこと。人数に対して決して十分とは言えないスペースにもかかわらず、参加者はみな思い思いにその時間を楽しんでいる。

大夕食会では、ビュッフェ方式で地元の恵みをいただく
ホール外のテーブルには、地元婦人会の方々や実行委員のパティシエ、ボランティアの方が作った料理が並ぶ。
まず現れたのは、「津奈木三飯(つなぎさんめし)」。「鯛めし」「鶏めし」「海老めし」の3種の炊き込みご飯で、隣町の津奈木町では、昔から来訪者に振る舞ったそうだ。お昼に会った婦人会の石田さんからそう伺った。
今日知り合った仲とはいえ、「あの人が作ってくれた」と思うとありがたみが増す。地元の恵みたっぷりの海の幸と山の幸を同時に味わえるのも贅沢だ。

「津奈木三飯(つなぎさんめし)」。写真右から時計回りに「鯛めし」「鶏めし」「海老めし」
「牛すじの煮込み」や「きのこ汁」、「だし巻き卵」と目移りしながら器によそう。後半には「さつまいもの天ぷら」や「ささみのチーズフライ」などボリュームのあるメニュー。
デザートには「梨」「柿」「みかん」が並び、品数も量も充分すぎるほどだった。
ホールで偶然石田さんと再会、「また会った。縁があるね」とお声かけいただいた。
夕食会で知り合ったのは、福島県大玉村で蕎麦農家を継いだ飛田 維織(とびた いおり)さん。中山間地の可能性について聞く中で、内に秘めた情熱を感じた。
昨日まで他人だったはずなのに、初日も終わりに差し掛かるとなんの違和感もなく食事を共にできていることが今回のイベントのすばらしさを表している。

この日いただいた食事。ビュッフェ方式なので、2周、3周する参加者も。
ふたたびホールに集まると、「皆さんをこのまま水俣から帰すわけにはいきません」というスピーチ。参加者も一緒に歌と踊りを楽しみ、この日一番の熱量のうちに初日を終えた。
(文・写真/婦人之友社 座波佑成)
『婦人之友』では、本イベントの準備段階として8月に行われた会の様子を1月号で紹介、2026年の新シリーズをスタートする。皆さんにもぜひ、水俣の生産者と生産品に出会っていただきたい。




