テッラマードレ in 水俣 〜マーケット篇〜

 

2日目、会場をエコパーク水俣に移し、スローフード・マーケットが開催された。もやい館ではスロー映画祭と題して2本の映画の上映会とアフタートークが行われる。

両会場は3km ほど離れた場所にあり、この日はスローフード・マーケットと、隣接する会場で同時開催された「九州和紅茶サミット」のみの訪問となった。

 

調理しながら呼び込みをしているブースや、台東の民族衣装を着てコーヒーや伝統食を紹介しているところもあり、1日目とはまた違った雰囲気。

公園内のスペースは入場無料で、家族連れから年配の方まで、幅広い層が訪れていた。

50以上の出店者は「食」というテーマでは共通していながら、販売・紹介している内容は多様性に富んでいた。

 

「テッラマードレ・ジャパン」の頭文字、「T」「M」「J」がみかんコンテナで表現されている

 

エコパーク水俣は、ただ海の近くに造られた公園ではない。

かつて公害で深く傷ついた海を埋め立てて整備された公園であり、汚染されてしまった魚たちが眠っている場所でもある。

 

不知火海はとても穏やかで、マーケットの会場では波の音や海からの風は感じられない。

それでも、1日目のクロージングで聞いた、「漁師たちは海から水源である山を想い、陸の農家たちは山から豊かな海を眺めている」という話を思い起こし、その存在は近くにあるのだと知った。

 

出店の一つ、「合鴨家族古野農場」にはぜひ伺いたいと考えていた。

「NHKプロフェッショナル仕事の流儀『失敗の数だけ、人生は楽しい』」を島村さんに薦められ、関心を持ったからだ。この日、現地で島村さんにご紹介いただき、ご夫妻とお話しすることができた。

 

現在は次男の泰治郎さんが継ぎ、妻のサハラさんは10年以上「食にん市」と題したスローフードマーケットを運営されているという。

「知っている生産者が作った食べ物を手にできたら」、また「生活の一部になるように」と、集客面では不利でも平日の夕方に開催しているのも特徴的だ。

聞くと、今回並んで出店されている皆さんは「食にん市」のつながりだという。ここでも生産者のネットワークの強さを感じる。

 

「食にん市」のみなさん。横並びで出店されていた

 

出会いの中でショックを受けたのは、自称・トマト男こと、「農園とフォーク青果店」の中村さんの話だった。トマトの産地として有名な熊本県だが、形や大きさなどの理由で廃棄されるトマトは八代市で年間1,000トン以上に及ぶという。

そんな現状を打開するべく、廃棄されるはずだったトマトを使った商品開発に挑戦していきたいという意気込みを聞き、中村さんの情熱に感動すると同時に、より多くの人にこの現状を知ってもらいたいと感じた。

 

食から広がるさまざまな連携

 

生産者以外にも、日本農福連携協会の渡部 淳さんからは、農福連携(農業と福祉の連携)について伺った。障害を持っている人だけではなく、刑務所や少年院を出て就業が困難な人など、さまざまな生きづらさがあって働くことが難しい人にも、人手不足と言われる農業との連携の可能性があるという。

一口に「人手不足」と聞くと単に人数が足りないところをイメージしがちだが、自営業である農家が、作業に時間を割くあまり経営や企画に遣う時間がなくなってしまうという課題がある。

 

島村菜津さん(写真左)と渡部淳さん(写真右)。福田農場にて不知火海を背に

 

渡部さんが関わり出店していたのは「大隈半島ノウフクコンソーシアム」と、NPO法人熊本福祉会の「モッちゃん水餃子」。

耕作が難しくなった高齢者から畑を借り上げ、どんな野菜を作って欲しいか話しながら野菜作りに取り組んでいる人たちからも話を聞いた。畑の収穫物も食材に利用して、カフェも併せて運営。地域の方々の交流の場を提供している。

 

小道を挟んですぐ隣、九州和紅茶サミットも賑わいを見せていた。

水俣の「天の製茶園」をはじめ、「和紅茶四天王」と呼ばれる生産者が並んで出店。中でも「お茶のカジハラ」は、2022年の国際品評会で夏摘みべにふうきが最高賞をとったという。

茶葉はもみ洗いができないため農薬の残留度も高く、本来ならば人体への影響が懸念されるところ。日本のお茶の評価基準は茶葉の美しさも重視される傾向があり、農薬を使った方が有利な側面があった。それに風穴を開ける出来事だ、と島村さんは言う。

 

その後「あの景色は絶対に見るべき」という島村さんの言葉に、福田農場に同行させていただいた。

渡部さんの運転で、農場まで20分ほど。改めて、海と山の近さを感じる経験だった。

丘の上に拓かれた農場は、レストランやカフェを併設している。不知火海を見下ろす景観は圧巻で、この2日間の体験や、たくさんの出会いを思い出しながら眺めた。

 

福田農場より不知火海を望む

 

(文・写真/婦人之友社 座波佑成)

 


『婦人之友』では、本イベントの準備段階として8月に行われた会の様子を1月号で紹介、2026年の新シリーズをスタートする。皆さんにもぜひ、水俣の生産者と生産品に出会っていただきたい。

 

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