シリーズ【わたしとお金】「お金が足りないときどうしたらいいの?」

設計士 薬師寺祥子さんの場合

 

 

家計簿、節約、貯金、給与……。

私たちが「家計管理をしなくっちゃ」と、考えたとき、思い浮かぶことは人それぞれです。

このシリーズでは、【お金】について「私はこう考える」という、人生の軸となるものをききながら、読み手が自分の考えを整理できるよう、登場する方に質問を投げかけていきます。

 

 聞き手:婦人之友社

 



今回の質問

「お金が足りないときどうしたらいいの?」

 

 今回お訪ねした薬師寺祥子さんは50代の設計士。家族は大学院生の長女(自宅通学)、社会人1年目の長男(独立)、大学1年の次女(遊学)と早期リタイアした夫の5人。自身の設計した土間のある家で、季節を感じながら、衣食住を大切にした日々を送っています。一方、家計の面では人生の中でいちばん支出の多い「教育費の山」の時代。この大きな金額の動く日々にどう向き合ってきたかを聞かせていただきます。

 

【お金オンチでも、だいじょうぶな方法あります】

 

ーー 大きな木々に囲まれた薬師寺さんのお宅に一歩入るとゆったりとした空気が流れ、お金のことにくよくよする自分の小ささを感じますーー。でも、どんな人にもお金の悩みはきっとあるのではないかと想像しながら、今日はお話を伺いたいと思います。薬師寺さんは「お金が足りない!」と、なったことはありますか?

 

薬師寺 「お金が足りないとき」ですよね。ありました、ありました。そもそも足りているときなんてなかったかもしれません(笑)。

 

ーー それを聞いて、少しホッとしました。

 

薬師寺 ちょっと話はそれますが、最近私の中でブームになっている言葉があるんですよ。

 

ーー ブーム? お金にまつわる言葉ですか?

 

薬師寺 “すべてのこと”かな(笑)。

 

ーー ぜひ、教えてください。

 

 

 

 

薬師寺 私はわりと考えごとを楽しむタイプなのですが、今しっくりきているのが「それって気のせいじゃない?」というフレーズなんです。

 

ーー 「気のせい!?」ですか?

 

薬師寺 時間がないとか、子どもや家族への対応とか、人から自分はどう見えているかとか。何かがうまくいかないとき、冷静になって自分のまわりを俯瞰してみるんです。すると「あれ? 気のせいかも」って気持ちになる。

 

ーー 自分のことを少し遠くから眺めてみることって、だいじだと思いつつ、忘れがちですよね。

 

 

 

 

薬師寺 たとえば忙しいなって思うとき、その中身を見ずに時間がないことを言い訳にして、したいこともしなくてはいけないこともできなかったり、相手とよく話さないままに思い込みで気が滅入っていたり。

 

ーー 思い過ごしなのに、ネガティブな方にどんどん引っ張られてしまうような感覚でしょうか。

 

薬師寺 お金に関しても自分の内側だけで「ずっと不安」「この先どうなる?」「足りるわけない」となっていることってないですか?

 

ーー 大げさにいえば「お金の不安」も気のせい!?

 

薬師寺 そう、それです。何が不安なのか、どのくらい足りないのか、その事実に対してどう考えて、どう行動してみようか。それをひとつずつみてみたら、案外答えは出てくると思うんです。

 

 

 

 

ーー 頭ではわかりますが、お金のことを考えるのはハードルが高い、めんどうだなって思ってしまう……。

 

薬師寺 それも「気のせいかも」って考えてみるんですよ(笑)。私はずっと「お金オンチ」だったので、お金のことが実はよくわかっていない。あればあるだけ使うし、家のローンもなんとなくで組んだし……。

 それでもやってこれたのは、今から10年ほど前「わが家は教育費がピンチだぞ」 となったときに、不安ながらもその気持ちは一旦横に置いて、思いきって向き合ったからだと思います。今はkakei+(カケイプラス )を使っていますが、20歳を超えた子どもたちと「かあさん、家計簿をつけていなかったら地獄に落ちていたかも……」と話すんです(笑)。

 

ーー 地獄……。

 

薬師寺 もう、ほんとにそう言いたいくらいなんです。だから不安が続いている人がいたら、ぜったい一歩踏み出したほうがいいんです。

 

 

 

 

ーー 実際にはいつごろのことですか?

 

薬師寺 長女、長男が中学に上がるころ。ふたりが私学に行きたいとなって、急に大きな学費に直面したんです。そしてはじめて予算というものを立てました。その数字を友の会の先輩(*友の会『婦人之友』の読者の集まり)に見せたところ、案の定何人かに「厳しいわね、、、」ときっぱり言われました。「なんとかなるわよ」っていったのはひとりだけ。

 

ーー 「厳しいわね、、、」ですか。落ち込みましたよね?

 

薬師寺 「へえーなんとかなるんだ」って思いました(笑)。

 

ーー そうとったのですね! 前向きですね!

 

薬師寺 たったひとりの言葉でしたが、どうやってだいじょうぶにしていこうかな、現状は足りないけれど、どうすれば可能(足りる状況)にしていかれるのかなと思ったんです。私が大きくお金の舵取りを変えたきっかけです。

 

 

 

 

ーー 具体的にはどんなことを?

 

薬師寺 家計簿のほかに、ライフプランを表計算ソフトでつくって、収入、支出を入れていくんです。そしてこの先かかる教育費を調べて入力して、その都度、実際の金額もどんどん入れていきました。でもそうしたら「私たち先々生きられないよ」なんてことまで見えてきちゃって(笑)

 

ーー こわくなかったですか?

 

薬師寺 仕事はずっと続けていたので、現状いくら足りなくて、どこを削れるか、その上で収入を増やすしかないということは常に考えていました。手に職があるといっても、すぐに収入につながることではないので悶々としていました。「小さい子どもがいる人は雇えない、迷惑だ」と言われたり。厳しいこともありました。

 

 

 

 

ーー 家計簿やライフプランをつくって数字と向き合っても、結果がすぐに出ないこともありますよね。

 

薬師寺 たしかにその時点でお金は増えません。でも、いくら足りないかがはっきりします。足りない分が見えてくると選択肢ができるんです。ここはお弁当にしようとか、ここは健康のためにもバスをやめて歩こうとか、今日は自転車でとか。それがわからないと、自分が何をしたらよいかが見えなくて、なんとなく節約的な生活をするしかないんです。なんとなくのまま考え続けるからとても疲れる。

 

ーー ゆったりと生活をしている薬師寺さんが、表計算ソフトにパチパチ打ち込んでる姿はイメージできなかったので「細かくライフプランを立てている」というお話が聞けたのは、大きな収穫です。

 

薬師寺 人には色々な部分がありますよね。見えている姿と見えていない姿。お金があるかどうかは別として、数字を見ないほうがこわかったんですよ。とはいえリーマンショックがきて、わが家の収入がガクンと下がり、来月の学費をどうしようということもありました。

 

 

 

 

ーー 社会的な背景でどうにもならないときはどうされたんですか?

 

薬師寺 なーんにも「買わない」「買えない」生活です。洗濯機が壊れたときは、部品を交換する数千円も厳しくて「手洗い」しました。末っ子とシーツをギュウギュウ絞ってパンパンって干したり。楽しかったですよ。そういうふうに生活する習慣ができると、人間の力が上がっていくんです。

 

ーー おもしろがれる人は、そういう生活もなんだか楽しそうで悲壮感がないですよね。

 

 

 

 

薬師寺 あとは、家族といっしょに考える。教育費も、全面的に応援するけれどお金の面ではこういう状況なので、お互い工夫と努力が必要ですよねということを。

 

ーー 子どもに心配をかけないようにお金のことは話さないほうが……と考えることがあるのですが。

 

薬師寺 中学生には中学生に対して、大学生には大学生に対してそのときに伝えられることを話すのは大切だと思います。わが家は何をだいじにしているか、どんな考え方なのかという価値観を伝えることにもなります。お金の多い少ないが、ものの価値や人生の豊かさとは重ならないよねということも、こういうときに話せることだと思うんです。

 

ーー お金のことも、ちゃんと話せば伝わるんですよね。

 

薬師寺 それには数字が必要になってくるわけなんですよ。お金を仕分けしていくことと、生活や人生を豊かにしていくことは同時進行だけれど、比例しているともいえないし、比例する部分もある。そういうひとつのものさしで測れないことを話せるのは、家族だからです。

 

 

 

 

ーー ライフプランと数字の目処が立った後は、安心して家計に向き合えたのですか?

 

薬師寺 ないない! 今年の教育費は捻出できたと思っても、「地方に遊学したい」「休学して旅をしたい」「大学院に行きたい」「早期退職したい」と次はそうきたかと思う家族の転換期は続きました。ダメなものはダメ、できないこともあるということを前提に、その都度シミュレーションと計算で、できることとできないことを家族で見てきました。子どもたちも奨学金を調べたり、休学中の資金を蓄えてから旅に出たりと、いっしょに背負ってきた感じです。

 

 

 

 

ーー 「なんとかなる」というより「なんとかしていく」という感じですね。数字の面では厳しい生活でも、欲しいものに出合ってしまったり、誘惑があったりということは?

 

薬師寺 そうなんです。日常生活のことは工夫できても、私自身、古道具や家具、照明など自分の好きなものに対して無欲ではいられないときが折々にありました。もちろんすぐには買えないけれど、少し長く考えて、決断するときもあれば、今ではないということも。

 

ーー そういう自分も大切にしていいんですね。最後に、なかなか行動を起こせない人にメッセージをいただけますか。

 

薬師寺 お金のことを考えたとき、私は概念的に全体をイメージで把握するのですが、何かをスキャンするように端から順番に確認していってそこから解決策を見つけるという人もいます。どんな場合も自分の価値観が持てれば、人と比べて不安になったりはしないかなと思います。まずは自分の課題を知ることから。考えていても、時間だけが過ぎて、答えは出ないんです。

 実はとてもシンプルで、行きたい「目的地」と「現在地」を線で結んでみて、そこまでの「道のり」をどう進むかだけ。それが、わが家のお金のことなんじゃないかなと思います。

 

 

ヤクシジショウコ
設計士。東京第4友の会会員。家計簿歴26年。手書きの家計簿からスタートし、現在はkakei+で記帳。
「1/2設計室」を主宰。不定期に自宅で
文庫も開いている。

 


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