暮らしの達人セレクション「安部智穂さん・モノと暮らしのストーリー」04
[モノと暮らしのストーリー・安部智穂さん 04]
骨董市をめぐり、器や古道具を見るのが大好きな安部智穂さん。
暮らしの中で存分に使われて生かされるモノと、愛してやまないタイマグラでの暮らし、50代半ばを迎え「ここ数年は『選ぶ』ことを大事にしている」という心境の変化について、語ってくださいました。
(文・鈴木裕子/写真・筆者)
宮城県仙台市で粉引、灰釉、鉄釉の器を作り続けている「陶工房しゅうと」。土の温もりが感じられ、かつ凛とした佇まいが「とても好き」なのだといいます。
中でも気に入っているのは、わずかに口がすぼまっている「小鉢」。「出会ったきっかけは、ある展示会で娘がこの器を買い求めたことです。どこが気に入ったのか娘に尋ねると『淡い卵色が何とも可愛いらしいし、口がちょっとすぼまっていて、お粥を食べるのによさそうだなと思ったの』と」。
安部さんは、お粥やポタージュなどをよく作られるそうですが、そうしたトロッとした料理を盛るのに、この小鉢はお薦めだといいます。「縁にわずかな返しが施されているので、とろみのある料理をスプーンですくうときも、とてもすくいやすく、外に垂れることがありません」。すっかり気に入り、買い足されたそうです。最初にこの器に目をとめた娘さんも「この、微妙なカーブがいいよのね」とずっと愛用中。「最近は、娘から、使い勝手のよい器を教わることが増えた!」と嬉しそうな安部さんです。
もう1点は、「赤釉 凛花皿(りんかざら)」。「赤い色の器って、食卓にいいアクセントをつけてくれるんですよね。ただ、赤にもいろいろあって、今わが家で使っている器たちと相性のいいのは、華やかすぎずかわいらしすぎない赤。これが、なかなか見つからなくて(笑)。それだけに、この赤釉 凛花皿にはひとめぼれしてしまいました」。
深みのあるシックな赤と、一見したところ金属のようにも見える質感が何とも魅力的。「とても個性的なのに、料理を引き立たせてくれるんです。私はよく冷や奴を盛ります、たっぷりの薬味を添えて。それだけで本当にご馳走に見えるから不思議。お菓子を載せれば、お茶の時間がより心豊かなひとときになります」。
日常的に使う器はやはり「使いやすさ」が大切ですが、何をもって使いやすいとするかは人それぞれ。「この器は使いやすいと感じたとき、その理由をしっかり分析してみるといいですね。口の当たりがいいのか、手にしたときの重さがちょうどいいのか、他に使っている器とのバランスがいいのか。気に入ったポイントを具体的に意識化することを習慣にすることが、長くつき合える器選びのポイントかもしれません」。
今回ご紹介した作品は、F-TOMO SHOP でもお求めいただけます。
(2024.11.6)
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安部智穂 あべちほ
森の暮らし案内人。1994年に桶職人の夫と岩手県早池峰山麓のタイマグラ集落に移住。山菜や木の実を採り、野菜を育てて保存食や発酵食にするほか、クラフト市を主宰するほど手づくりの道具が好き。たくさんの作家や職人とつながりを持ちつつ、自分でも草木染めやカゴづくりを楽しんでいる。著書に『森の恵みレシピ 春・夏・秋・冬』、『カゴと器と古道具』(共に婦人之友社刊)がある。