自然と歴史に包まれた信州の景色
[モノと暮らしのストーリー・吉池浩美さん 07]

長野県東御(とうみ)市でチャイと焼き菓子を楽しめるカフェ「mimiLotus(ミミロータス)」を営む、吉池浩美さん。ネパールやインドを巡りながら、現地の人にチャイをふるまい、その旅の風景からインスピレーションを受けて、さまざまなアレンジチャイを生み出してきました。今回は吉池さんの故郷、信州(長野県)の景色についてお話をうかがいます。
(文・婦人之友社、写真・吉池浩美)
自然と歴史に包まれた信州の景色
吉池浩美さん(mimiLotus[ミミロータス]店主)

やっと好きになれた地元の風景
吉池さんが育った東御市は、浅間連山や八ヶ岳の山並みに囲まれ、のどかな田畑が広がる自然豊かな場所。ミミロータスは、しなの鉄道の大屋駅の近く、街を横切る千曲川沿いにあります。

(ミミロータス中庭から眺める千曲川)
「実は私、子どもの頃から早く長野を出たくてしょうがなかったんです。子どもながらに、世界が狭すぎる!と思っていたんですよね。田舎なのでうわさはすぐに広がるし、山が近くて閉塞感もありました。
高校で寮のある東京の自由学園に進学することになった時は、とても嬉しくて喜んで家を出た記憶があります。鎌倉でお店をしていた頃も、年に1度帰る程度でした。ここでお店を始めて4年経ち、今ようやく地元が好きと思えるようになったんですよ」
古いものを大切に受け継ぐ

(海野宿の町並み)
お店を訪れるお客さんに吉池さんがよく紹介するのは、近所にある海野(うんの)宿。江戸時代に中山道と北陸道を結ぶ北国街道の宿場町として、明治時代には養蚕の町として栄え、江戸・明治の風情ある建物が建ち並んでいます。旅籠屋(はたごや)や長屋、蔵などがおしゃれなカフェやセレクトショップになり、観光客にも人気の場所だそう。
ミミロータスの建物も、明治時代に木綿や繭の問屋“綿屋(わたや)”を営んでいた実家の古民家。築120年の日本家屋を、ネパールやインドの旅で出合った景色をヒントに吉池さん自身がデザインし、リノベーションしました。
「歳を重ねて、古いもののよさが分かってきたように思います。
客席スペースにしている奥の部屋は、もともとお座敷だったところ。子どもの頃は壁が黒くて重厚感があって怖かったんですよね。ここがお店になるとは思ってもみなかった!
お店を開く場所を探してあちこち見たけれど、ふと自分の家をよく見たら何だかかっこいいなと。ご先祖さまが大事に守ってきたこの場所を、また私の代で使わせていただき、守っていくのもいいかもしれないなと思ったのです」

(明るい陽射しが差し込むミミロータスの店内)
障子の枠をパーテーションにしたり、床板を再利用したり、元の家の資材もできるだけ活かす形でお店を設計。鎌倉にあったお店の扉や机、椅子もふたたび使用しています。
「お店ができていくにつれてこの土地や家に愛着がわき、ご先祖さまも祝福してくれているように思えて。
そして最近になってようやく、もっとこの辺りのことを知りたいと思っていろいろ出かけるようになりました。お気に入りは、佐久の広い田んぼと山並みの風景、それから千曲川沿いを車で走ることかな。とても気持ちいいんですよ」

(吉池さんお気に入りの佐久の散歩道)
東御市や上田市は晴天率が高く、カラッと晴れている日が多いそう。冬は特に空気が澄んで、夜空の星がきれいに見えます。
「夜、ウォーキングをしながら空を眺めると、たくさんの星がキラキラと輝いていて、“ここにいていいんだよ”と言ってくれているようで、励まされます。
嬉しいことに、県外からお店に来てくださる方も多くて。そういう方たちにはこの地域の素敵な景色をもっと伝えていきたいですし、多くの人にとってミミロータスが東御を訪れるきっかけになれるように、チャイやスパイスの魅力を発信し続けていきたいと思っています」
(2025.10.22)
吉池さんブレンドの茶葉は、F-TOMO SHOP「暮らしの達人セレクション」 でお求めいただけます。
ぜひご覧ください。
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吉池浩美 よしいけひろみ
1974年、長野県生まれ。15歳のとき、トレッキングで訪れたネパールで現地のチャイを知り、紅茶屋になろうと決意。自由学園卒業後、神奈川県藤沢の「紅茶専門店ディンブラ」にて10年間、磯淵猛(いそぶちたけし)氏に師事。2005年、鎌倉に「紅茶専門店ミミロータス」を開き、13年間営業の後閉店。1年間ネパール各地チャイをふるまう旅をする。現在は長野県・東御市にてチャイと焼き菓子の専門店「mimiLotus」を営む。2024年12月10日に初の著書『旅のち、チャイ ーチャイと焼き菓子のレシピ&旅ノート』を、婦人之友社より発売。
【Instagram】@mimiLotus




